特に電気自動車だから特別なタイヤが必要ということはないのですが、(1)比較的車重が重い、(2)トルクが大きい、(3)エコ性能に重きを置いて効率性の要求が高い、(4)価格帯が少し高い車種が多い、といった特性から標準装着のタイヤが選定されることが多いようです。
BMW i3のタイヤは、ブリジストンのECOPIA ologicというかなり特殊なタイヤが装着されています。全長がちょうど4mほどのコンパクトカーに標準サイズで19インチタイヤが装着されているのですから、驚きますね。それもフロントが155/70R19で、リアが175/60R19というサイズ。普通は19インチホイールといえば、タイヤの扁平率は50とか40くらいになることが多いわけで、クルマに詳しい人なら、19インチなのに60や70という扁平率はすぐに違和感を感じます。しかも、それだけ大きいのに細い!
ologicフロントタイヤのアップこのタイヤ、横から見た見栄えはとても良いと思います。何しろホイールが大きくて、タイヤ全体も大きいので、コンパクトカーなのにスポーティーな感じ。タイヤがクルマに与える表情というのはとても影響が大きい。ネット上の画像ですが、日産リーフとの比較画像を作ってみました。感じ方は人それぞれだとは思いますが、i3の方が走りそうな予感がするスタイルに感じます。ホイールベースはリーフの方が13cmほど長いのですが、i3は四隅に配置された大きなタイヤがしっかりと地面を捉える安定感を感じます。単純にカッコイイと思いませんか?
そして、正面や真後ろから見ると、タイヤはとても細いので、がっかりします(笑)
ブリジストンは、転がり抵抗を抑えた低燃費タイヤをECOPIAブランドで展開していますが、その中でもologic(オロジック)は特別なタイヤです。2018年3月現在、このタイヤを搭載した市販車はBMW i3だけで、しかも他の市販車にアフターパーツとして取り付けるのは(タイヤサイズがあまりに違うので)かなり困難です。大径で細く軽量高内圧のタイヤによって、転がり抵抗は30%も軽減しているそうです。
i3の乗り味は一種独特と言って良いと思います。BMWらしいテイスト(硬い足回りと敏感なハンドリング)は強く感じるのに、ドライビングポジションが高い位置にあり、ややアップライトな体制になるので、初めて乗ったときには激しい違和感を感じます。この位置で運転しながらも、床下のバッテリーによって重心は十分に低く、コーナリングの安定性はとても高い。出足の加速感はそこまでやる?というほど。スペック上の0-100km/h加速は7.2秒で、十分すぎるほど速いのですが、ologicもそれを吸収するトラクションを発揮しています。
ologicについてひとことで言えば、思ったより普通という印象になります。発進制動時のトラクションも十分にあり、ウェットな路面でも不安になることはありません。モーターのレスポンスの高さ、トルクの大きさ、ワンペダルドライブの一連の組み合わせによって、本当に思い通りに走り、止まり、曲がるという、BMWが目指すドライブフィールがガソリン車とは全然違った形で達成されていると言えるのではないでしょうか。
好みもあると思いますが、欧州車は全体に足回りがとても硬い。i3も例外ではなく、空気圧が高いologicも、その印象を強めているように感じます。i3の場合はカーボン繊維の車体の効果で車重が1300kgと軽いので、足回りが硬いことで路面の凹凸を拾って、瞬間的にトラクションを失いやすい傾向を感じます。タイヤの細さがその傾向に拍車をかけるので、急加速時や急旋回時の路面凹凸ではトラクション不足を感じたり、ジャダーを感じたりします。モーターは緻密に制御すれば空転は限りなくゼロに近づけることができると思うのですが、i3では波打つ路面で強く加速すると空転を感じます。パワーを感じるように、あえてそのようにチューニングされているのかもしれません。もちろん、それで直進安定性が損なわれるとか、不安を感じるようなレベルではありません。
同じ電気自動車というだけで、車重も2倍、電力消費も2倍のテスラモデルXと比較するのもどうかとは思うのですが、その味付けはまったく異なります。テスラは跳ねることも空転することも決してなく、加減速も転回もすべてはオンザレールの感覚で、決してドライバーに身構えさせないように制御しているようです。我が家のモデルXは最廉価モデルなので、0-100km/h加速は6.2秒というスペック(それでもBMW i3よりも1秒速い)ですが、感覚的な加速感は逆で、i3の方が1秒くらい速いイメージ。このあたりの味付けはBMWっぽいのかな、と思っています。
実用的には、ologicの場合、タイヤの選択肢がブリジストンの1種類しかないことが残念なところです。価格的にも高め、コンフォートタイヤとか高性能タイヤという選択ができないし、スタッドレスも1種類だけ。それでもホイール込みで1本3万円くらいなのは、タイヤメーカーにとっては戦略価格なのでしょう。コンパクトカーだと思えば高価なタイヤですが、600万円のクルマのタイヤとしてはむしろ安いかもしれない。
個人的には、横からの見た目がカッコイイ上に、十分な基本性能で、低電費にも寄与していると思うと、とても満足しています。