電気自動車の選択について回るのが、バッテリー容量です。ガソリン車やディーゼル車では、航続距離は燃費とタンク容量で決まるわけですが、空にさえしなければガソリンスタンドですぐ満タンですから、そこまでは気にしませんね。
我が家のBMW i3の場合、33kWhの電池を搭載し、JC08モードで航続距離390kmとされています。1kmあたりの電費は約85Wh/kmということになりますが、正直なところ、現実的な電費とは2倍近く違います。モデルチェンジ前のi3は21.8kWhで229kmということだったので、電費も95Wh/kmから85kWh/kmに10%くらい向上したようですが、何が寄与しているのかは、正直よくわかりません。
i3の主な用途は日常利用なので、どんなに多くても1日に100km走ることはなく、そういう意味では旧モデルでも問題はなかったかもしれません。でも、電池容量が大きいと充電時間も短くなるし、寿命も電池容量に(ほぼ)比例して伸びるので、電池容量が大きいに越したことはない。
蓄電池は充放電を繰り返すと劣化しますが、この劣化の指標となるのがサイクル時間です。我が家のi3の実電費は130Wh/kmほどですが、仮にこれで1万km走ると、累積で1300kWh使うわけで、これは電池容量33kWhの39.4倍です。電池屋さんは、これを39.4Cと表現します。我が家のi3の場合、1万km走ったら39.4C、5万kmなら197Cということになります。
リチウムイオン電池の標準的な性能では、500Cで容量60%と言われます。仮にその通りだとすれば、1万kmの39.4Cでは、0.6^(39.4/500)=0.961で、1万kmでは3.9%の電池劣化になるわけですが、21.8kWhの旧バッテリー仕様だとすると、59.6Cで0.6^(59.6/500)=0.941なので、電池劣化は5.9%も進むことになるのです。もともと容量が少ない上に、早く劣化してしまうわけで、電池容量がいかに大事かがわかります。
我が家のテスラの方は60kWhですが、実際に搭載されているのは75kWh、実電費230Wh/kmで計算して、劣化率一覧表を作ってみました。
モデル(電費) | 電池容量 | 1万km | 5万km | 10万km | 25万km |
---|---|---|---|---|---|
BMW i3 (130Wh/km) | 21.8kWh | 5.9% | 26.3% | 45.6% | 78.2% |
33.2kWh | 3.9% | 18.1% | 33.0% | 63.2% | |
テスラ モデルX 60D (230Wh/km) | 75kWh | 3.1% | 14.5% | 26.9% | 54.3% |
テスラ モデルX 100D (230Wh/km) | 100kWh | 2.3% | 11.1% | 20.9% | 44.4% |
寿命を考えると、容量は大きければ大きいほど良いわけですが、その一方で、充電インフラを考えると、あまり大きくても意味がない面もあります。
我が家の充電器は200V16Aなので、深夜電力の23時~7時までの8時間で充電できるのは25kWhくらいです。BMW i3の場合は、ほぼ空っぽでも翌朝には満タンということになるわけですが、テスラの場合は1日では満タンになりません。テスラ本体は交流200Vでも標準で48A、アップグレードすると72Aまで流せるし、ウォールコネクターは80A容量なので、太いケーブルがついているのですが、通常の宅内配線では、ピークで20Aまでなのです。
また、CHAdeMOの急速充電器は出力の大きいもので400V125Aで、最大30分で制限されているものが大半です。理論的限界値でも、1回の充電で25kWhしか充電できないわけです。CHAdeMOにはもっと電流値の低い充電器も多数あって、30分で充電できるのは10kWhなんていうこともあるので、電池容量を生かせないことも多い状況です。
現在標準的な電気自動車の充電環境を考えると、だいたい30~40kWh程度の電池容量にとって快適な設計がされているので、テスラModel Xの60kWhもBMW i3の33kWhも、不足や不便は感じません。スーパーチャージャーが近くにあったり、CHAdeMOの容量が大きく上がったりすると、また違うのかもしれません。